シャープなフォルムを身にまとった２３フィートのフィッシングボートが湖面穏やかな浜名湖の水面を気持ち良さそうに走り抜けていく。『ヤマハF.A.S.T.23』は走りと釣りの両面からユーザーを満足させてくれる新たなラインナップの1艇として、今シーズンヤマハから発表されたフィッシングボートである。これまでのヤマハの２３フィートを思い浮かべるとYF-23、UF-23、FW23カディ等、それぞれが魅力的な長所を持ったモデルが多数出てくる。そこに今回発表されたF.A.S.T.23が果たしてどんなパフォーマンスを見せてくれるのか。取材前から非常に楽しみであった。

取材場所であるヤマハマリーナ浜名湖に到着後、早速係留されたF.A.S.T.23を見てみる。幅はYF-23より少しシャープにはなってはいるが、細いというイメージは無い。逆に水の抵抗を防ぎ、燃費面でもメリットがあるようだ。気になる走行面に関してだが、加速性能に関しては全く物足りなさを感じない。約５,600回転で軽荷参考値(最高速)は30.5ノットを記録した。自分のイメージしていた速さの1つ上をいく速さで早速こちらの予想を良い意味で裏切ってくれた。また、その際の燃費数値は40.1L/hと燃費面でも大きな問題は無さそうだ。走りは非常に身軽でクイックなレスポンスを発揮し、躍動の言葉を表すかのごとく、湖面を活き活きと滑走していた。

また、驚いたのはボートが角度のキツいコーナーリングに差し掛かった時である。F.A.S.T.23は低重心のフォルムから安定した姿勢を保ちつつ、僅かに船体を内側に傾けながらキュッと音が聞こえてきそうな鋭いコーナーリングを見せたのである。まるで横に平行移動するかのような安定したコーナーリングを見ていると、このボートの特徴でもある船型がパッと頭をよぎった。両端に大きく張り出して凌波性を向上させるとともに、スプレーをしっかりとカットする大型フレアー、高い乗り心地と風流れ抑制性能を誇るウェーブ・スラスター・ブレード、そして、船尾まで伸びたフラットキールは優れた保針性を発揮し、更には浜座りさえ可能にする。この３つのポイントは乗り心地を大きく左右する重要な要素であると言っても過言では無いのだ。コーナーリングを繰り返していると引き波を越えていくシーンもあるのだが、しっかりと波を切り、スプレーもカットしていた。

走行性能をチェックした後には陸上に揚げてデッキスペースやコックピット、カディの部分を中心に撮影をしていく。F.A.S.T.23はデッキ部分もフラットなスペースが多く、船内を動き回ってもあまりストレスは感じない。ウォークアラウンドも窮屈な印象は無い。また、デッキには釣り座もあるので少し休みながら釣りを楽しみたい方にも嬉しいレイアウトになっている。また、スターンデッキは３人が前を向いて座れるレイアウトで、これならポイント移動の際にも景色や会話を楽しみながら過ごせそうだ。また、両サイドのガンネルの高さも座った時に釣りがし易い高さになっており、釣りのし易さはもちろん、桟橋からボートへのアクセスも非常にし易い。

コックピットはシンプルにまとめられており、操船もその分スムーズに行える。また、GPS魚探を取り付けるスペースも広めになっており、自分好みのアレンジにも対応してくれそうだ。そして、フロントウィンドウもワイドになっているため、操船時の視野がとても広い。俊敏な走りを楽しむために窓が大きいとより走りの楽しさも増すと思う。また、スターンデッキにスパンカーを取り付けても1クラス上のレベルの釣り方が楽しめそうである。そうでなくても風流れ抑止性能が高いため、自分のやりたい釣りをとことん楽しませてくれる仕様になっていると思う。

もちろん走りのアクティブさも楽しめるので、どんどんポイント移動を繰り返し、目当ての魚を探し回っても面白いだろう。疲れたら少し座ってのんびりエサ釣りをしても良いのだ。そして、釣りのスタイルによっては多数のロッドや荷物が必要になるシーンもあると思うが、このボートはクラストップレベルの収納容量を誇っており、その点は心配無さそうだ。両サイドのスターンロッカーも当然広いのだが、特に注目したいのはカディである。ロッドをまとめて置ける奥行きと、荷物を多数積み込める幅は注目して欲しい部分で、このスペースは大きな体でなければ十分寝っ転がれるのではないだろうかと思う程。

そして、カディの内部にはマリントイレの設置も可能で、家族や恋人と出航する際や少し長めの釣りにも十分に対応してくれる。２３フィートという限られた船体において、効率良く配置されたデッキレイアウトは機能面でユーザーを唸らせ、乗り心地にこだわり抜かれた船型は安心感を更に高め、力強い走りはボートで走る喜びを最大限に高めてくれるのである。今シーズン新たにヤマハのラインナップに加わった１艇はこれから注目せずにはいられない魅力的な１艇であった。